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Jの衝動書き日記

さらりーまんSEの日記でございます。

魅力的な女性人物ということでこの人はいかが

小説

恋が女をダメにする。 - Something Orangeという記事があったので読んでみた。なるほど、ほぼ同意出来る。が、魅力的な女性が登場する小説という意味では、2つほど挙げられる。もちろん主観に過ぎないが。もっとも読んできた本がブログ著者に比べれば圧倒的に少ないのでそう感じるだけかもしれない。

十二国記の景王・中嶋陽子

著者は小野不由美NHK教育でアニメでも放映された作品だ。って、今更書くこともないとは思うが一応。もし未読なのであれば是非読んでもらいたい。

月の影 影の海はもう圧巻である。何せ普通の女子高校生に過ぎなかった娘が突如訳もわからず異国に連れ去られ、妖魔に絶え間なく襲わられ、そして現地人に裏切られ、ボロボロになっていく。月の影 影の海の上巻はこんな感じだ。前半ではオドオドする普通の気の弱い娘が上巻の最後には、あぁこんな荒んでしまったのね、という具合である。まあ、襲い掛かる境遇を考えれば無理もない。すっかり人間不信になってしまうのである。

これで終わってしまってはただの暗い話だが、そうは終わらない。上巻が坂道を転げ下っている展開なら、下巻はそれをゆっくり上っていく展開なのである。その引っ張り挙げていく切っ掛けが楽俊というネズミ、もとい半獣(男)との出会いだ。が、立ち直るのは楽俊がすべてではない。むしろ陽子は自分で立ち直って行く。

なにせすっかり人間不信に陥っているので楽俊の好意を素直に受け取れない。それどころか物騒なことを考えることもしばしだ。しかも旅の道中には一度見捨ててしまったりする。が、そんな自分の厭らしさ、醜さに対して自分で気づき、恥じ、決別していくというのが下巻のメインだ。もちろん楽俊が良い奴過ぎるというのも根底にはある。

そして、心身共に精悍になっていき、自分がその異国の一つ・慶国の王であるとわかる。自らの卑しさを十分把握している陽子は散々悩みながらも王としてその国で生きていく決意をする、というところで終わる。

信じることに他人は関係ない。裏切られてたとしてもそれはその人の所為ではなく、その人を信じた自分に責任がある、みたいな事を悟っていくのである。実に魅力的な人ではなかろうか。自分の醜さを十分過ぎる程自覚したからこそ、二度とそのような事態は招くまいとする決意。王として相応しい。まあ、王となっても苦労は絶えないが(風の万里 黎明の空)、根底に芯が通っているので話も凄い面白いのである。

そんな景王・中嶋陽子は格がある女性なのではなかろうか。ただ、よくよく考えてみたら12国記シリーズに恋愛要素なぞ無いのであった。王は神なので結婚出来ないし(王になる前にしてたらOKなのだが)、陽子と楽俊も恋人ではなく親友だからだ。ただ、もし陽子が恋心を抱いたとしても、きっと捨て去るに違いない。恋愛至上主義に陥ることはおそらくあるまい。そう思える。

エンディミオンの救世主・アイネイアー

ダン・シモンズのSF大作である。こっちも有名な小説だ。作品自体は前作のハイペリオンと合わせて読みたいものである。さて、前述と異なり、アイネイアーは恋する女性である。ただし、普通ではない。救世主となるべき宿命を背負った女性なのである。

ダン・シモンズが描く世界では、AIが人類を裏であれこれ形を変えつつ支配している。主人公ロール・エンディミオンが生まれた世界では、その方法として聖十字架による復活、まあ死んでも生き返えれるという手段を取っていた。それにはAIが絡んでいるのだが、それは当然秘密事項で、表向けはパクスという教会が世界を支配しているのである。寄生とも言えるAIによる人類の支配。それを断ち切れる存在がアイネイアーなのであった。

ただ、アイネイアー自体は救世主としての自分は望んでは居なかった。それに救世主といっても聖人のような振る舞いをするわけでもない。何が善、何が悪と問うわけでもない。だが世界の根幹のルールを教える者ではあった。つまるところ教師である。その教えとは、愛は宇宙に存在する力なのだ、ということだ。強い力、弱い力、電磁力、重力、そして愛。男女の愛、家族愛、友愛、惹かれあう力。空間を飛び越えて作用する力。アイネイアーはそのように説く。そんなことを言っていたと思う。

ここだけ書くと何やら怪しげな宗教になってしまうが、これは心情の話ではなく、物理現象としての話なのである。この力で実際、空間をジャンプ出来てしまうし、世界に溢れる人々の声を聞けるのである。

そしてアイネイアーも一人の恋する女性だ。主人公・ロールとこれでもか、と愛し合う。大人の恋愛というものは各もあるべきというべきか。正直ひじょーに羨ましい。それでいて行動力もあり、聡明で、芯が強い女性でもある。ロールに関しては情けない記述も結構多いが、アイネイアーと共に行動できるだけでも凄い男だとは思う。

それでいてアイネイアーは恋愛至上主義には陥らない。ロールさえ居ればいい、という状況にはならない。内心思ったことは一度や二度ではないとは思うが。離れがたい、愛しい人が居るのにも関わらず、己の過酷な使命を果たそうとする。実際果たす。業火に焼かれるという凄まじい運命と共に。そしてそれこそが世界が変わる切っ掛けとなるのである。

ロールを守るために取った行動ではないということがポイントだ。自らの使命を果たすために死地へと向かったのである。愛によって己を見失わず、むしろそれを後ろ盾として自らの使命を逃げずに果たす。まさしく格がある女性なのではなかろうか。そして恋愛を入れつつ陳腐に終わらなかった良作ともいえると思う。

ちなみにエンディミオン自体はハッピーエンドなのである。恋人が焼死したのに、何故にハッピーエンドなのか? 気になるようならば是非結末を読んで頂きたい。まあ、文庫本のカバー絵がある意味ネタばれではあるのだが。